「冬の海」

冬にちかい冷たい雨の夜、何故か美しい女性が海岸に打ち寄せられたと思っていただきたい。
私は変人なので、打ち寄せられた美しい女性を拾い集めるのが好きなのだ。
当然助けられた女性は、早く暖めてあげないと死んでしまうよね。

家に連れて帰って、床に寝かせるのだけれど、濡れたままだといけないでしょう?
そこで服を脱がせる訳、下着もね。僕は凄く紳士だから、着替えさせる時彼女の裸を見ないように目を瞑る訳。
本当は僕も裸になって一緒に布団に入って暖めた方が良いのだろうけれど、まずいと思うんだよね。

ほら、そんな事をしなくとも目を覚ましたでしょう?
「お嬢さん、僕に発見されて良かったですね」
状況を理解して、彼女は自分が着替えさせられていることに気付く。
「あなたは着替えさせる時、私の裸を見たわね!」「あなたは断りもしないで、私の裸を見たんだわ!」

「寒い夜に海岸に打ち上げられるのは、助けて貰う為ではありません」 「そうだったんですか!」
「お嬢さん心配しないで、あなたの夏蜜柑の様なおっぱい見ませんでしたよ。他だって何にも見てません」
「それに、恋人とお医者さんと画家には、いくら裸をみられても、女性にとって不名誉ではないのです。
私は画家ですからね」

「私の裸を見たからには、ここに居させて貰います」

そういう訳で彼女が我が家に住んで丁度一年経ったある日、目に涙を浮かべて僕に言った。
「あなたに隠していたことがあります。実は私は人魚なのです」
人魚でも、女性というものは時々訳もなく涙が出てくるものなの。

お城に住んで、何百というダイヤモンドで身を飾りたてても、涙がでてくるのよ、判った?
あなたがそれを明かすなら白状しますが、実は僕だって天使なんですよ。
「人魚と話すと勉強になるけれど、何だか腹が立ってきたから駆けてくるね」

「あっ!待って、わたしも一緒に駆けさせて」

月夜に天使と人魚が駆ける。
「あの輝くものは何?」 「あれは人魚の鱗、月の光にゆらめいている蒼い炎」

僕達は一体何をしているのだろう?そうだ駆けているんだ。休息したら贅肉が付いてしまうから。
贅肉は罪と誰かが言ったから、それ以来駆け続けているのだった。
疲れたんだよね、不安にかられた人魚を抱きしめてあげなければ、、、。

山の頂上近くに清水が湧き出している。月天心が小さな泉に映っている。
時空を超えるには泉に映った月を飲むとよい。

ほら、僕を愛した人魚が消えてゆくでしょう?何時だってこうなってしまうんだよ、、、。

冬にちかい冷たい雨の夜、何故か美しい女性が海岸に打ち寄せられる事があった、と思っていただきたい。
私は変人なので、打ち寄せられた美しい女性を拾い集めるのが好きだったのだ。


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