珊瑚の丘の夕映

由良君美
1977年 青木画廊個展パンフレットから



夥しい珊瑚とフジツボの丘のうえに、妖精たちがいて、
その妖精たちには地衣のたぐいが絡み、
彼方の空を紅蓮の夕映えが彩どる---その夕映えは時として、
不安な荒天の明けの色に染まる。
そして全体の配色は、あらゆる宝石の贅を盡した
宝冠を想わせようとして輝く。
色そのものは、どれも決して透明ではない。
だが、全体は、おのれがカンヴァスであることを自から憎んで、
陶器絵の光沢へと限りなく憧れている。
そこに生れる愉悦、これが恐らく、高松潤一郎の
魅惑のあらゆる仕掛けなのだ。
彼の画布には観法の呪力はない。神話の綾なす釈義の迷路はない。
簡単に一隅を截り取って挿画にさせる気易さもない。
いいのだ。敷きつめた、踵が深ぶかと沈むような、
超豪華な絨緞の奢侈が、緻密な夥しさの蔭の親しげな
計算された投げやりと並んで憩う、そのまとまり。
これは、とてもハイブラウな、知的<リンボウ>の叙情である。
エ-リッヒ・ブラウァ-は、高松潤一郎の絵を愛すると聞く。
さもありなん。東西幻想の合するところ、
その最も大らかな地点のひとつに、彼の夢想は、
ゆっくりと、今やその翅根を開こうとしている。


limbo :地獄の辺土、「地獄と天国の間にあり、キリスト教に接する機会のなかった
正しい人又は洗礼を受けない小児などの霊魂の住む所」

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